時評 25 “安保” by 上野修

夜更けの街を歩いている時だった。遠くから騒ぎながらフラフラと歩いてくる酔っぱらったカップルがいる。だんだん近づいてくると、声が聞こえてきた。

「アンポ!アンポ!、フンサイ!フンサイ!」

彼/彼女は酔っていたからフラフラ歩いていたわけではなかった。酔った勢いではあろうが、陽気に二人でジグザグデモをやっていたのだ。年の頃は中年か、あるいは初老と言った方がいいくらいだろうか。

擦れ違ってから通りを曲がって見えなくなるまで、彼/彼女のジグザグデモから目が離せなかった。道行く人はこの光景を何とも思わないのか、あるいはただの酔っぱらいだと思っているのか、このカップルに見向きもしていなかった。

その光景を見てからしばらく経つ。もちろんその光景は醜悪だった。だがそれをいまだに忘れられないのは、醜悪だからではない。醜悪なものなどありふれている。

そうではなく、あまりにも完璧にすべてを集約していた光景だから忘れられないのだ。