時評 32 “ダゲールの秘密書簡、発見される” by 上野修

 ダゲールの秘密書簡が、4月1日未明、http://www.daguerreotype.fr/ に掲載されていた。その内容は、ネガ・ポジ法によるカロタイプの登場を、いかがわしいコピー技術として非難し、ダゲレオタイプの真正性を主張するもの。この書簡には、ダゲレオタイプには、それ自体を複製する一種のクローン技術が含まれており、そのクローン技術のロードマップを侵害するものとしてカロタイプを非難していると類推される一節があることが、さまざまな解釈をよんでいる。なかでも議論の的になっているが、長年その存在が噂されていた、科学的結社による千年単位での遠謀だ。
 この書簡の後半には、暗号の解読キーと思われる部分もあり、この解読キーを用いることで、まったく別の意味が生じる多くの論文があるという。その代表的なものが、ヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術』の第四稿。第三稿までの稿と違って、第四稿は論の整合性が著しく欠けていることから、これまで取り上げられることがほとんどなかった稿だったが、解読キーを用いると、第四稿が緻密なアナグラムであったことが明らかになるという。もし、これが事実だとすると、写真史、美術史、科学史のこれまでの解釈が大きく変わる可能性がある。
 なお、http://www.daguerreotype.fr/は、この秘密書簡の公開後、なぜか数時間で閉鎖されてしまい、検索エンジンのキャッシュにも残っていない。この謎の閉鎖とキャッシュの消去が、書簡自体の真偽や、何らかの妨害あるいは工作など、さらなる憶測をよんでいる。