photographers’ gallery press no. 11

photographers' gallery press no. 11

photographers’ gallery press no. 11

¥3,080

関東大震災直後の鉄道、圧倒的な規模の土砂災害、近代最大級のトンネル工事を記録した、3つの写真帖を計198頁にわたって収録。



〈Content〉

年1回発行の機関誌『photographers’ gallery press』第11号。

2011年3月の東日本大震災と福島第一原発事故以来、被災状況などを記録した数多くの写真が撮影されています。災害を記録するとはどういうことか、この度の震災は写真というメディアに多くの問いを投げかけています。本誌では、関東大震災直後の鉄道、圧倒的な規模の土砂災害、近代最大級のトンネル工事を記録した、3つの写真帖を計198頁にわたって収録し、伊藤俊治氏・平倉圭氏の書き下ろし原稿とともに、災害表象をこれまでにないかたちで捉え直します。また気鋭の執筆陣を迎え、これからの写真や美術、批評のあり方を導くような濃密な論考・対談を掲載いたします。

目次

伊藤俊治 『大正十二年九月一日 關東地方 大震火災記念寫真帖』解題 — “破局の時間”のモンタージュ

『大正十二年九月一日 關東地方 大震火災記念寫真帖』

『昭和九年七月 新潟土木出張所管内 直轄工事被害状况寫真』

『熱海線丹那隧道工事寫真帖』

平倉圭 断層帯を貫通する — 『熱海線丹那隧道工事寫真帖』

橋本一径 稲妻写真論

倉石信乃 ピクチャーへ — 災厄写真考

長谷見雄二 × 中谷礼仁 対談 災害の“ウラ”を読む — 東日本大震災と災害記録

豊島重之 Sigmund Freud/Symptomatic Future — フロイト、または、症候としての未来

岡村民夫 宮沢賢治と東北力

高橋しげみ 「港づくり」と「八戸づくり」 — 吉田初三郎の八戸市鳥瞰図から

久保仁志 高橋由一、〈似ている/似せる〉ことの論理 — 絵画を掘削せよ!

瀬戸正人 惜別 深瀬昌久 — 深瀬さん、向こう岸が見えますか?


photographers’ gallery press no. 11
B5判/並製/328頁
発行:photographers’ gallery
発行責任:北島敬三
編集責任:米田拓朗
デザイン:纐纈友洋
発行日:2012年11月15日
定価:2,800円+税
ISBN 978-4-907865-18-4


contents

『大正十二年九月一日 關東地方 大震火災記念寫真帖』
関東大震災(1923年)直後の鉄道・駅の被災状況や応急工事を記録した写真帖。地震による橋桁の崩落や土砂崩れに行く手を阻まれながらも、地震によって捻じ曲げられた鉄路を辿り、東京駅から真鶴駅へ。《計60頁収録》

『昭和九年七月 新潟土木出張所管内 直轄工事被害状况寫真』
1934年7月の豪雨による、土木工事現場一帯の被害状況を記録した写真帖。圧倒的な規模の地滑りや土砂災害が巻き起こした光景が記録されている。
《計34頁収録》
『昭和九年七月 新潟土木出張所管内 直轄工事被害状况寫真』 『昭和九年七月 新潟土木出張所管内 直轄工事被害状况寫真』 『昭和九年七月 新潟土木出張所管内 直轄工事被害状况寫真』

『熱海線丹那隧道工事寫真帖』
東海道本線の熱海・函南間を結ぶ、完成まで16年を要した丹那トンネル工事を記録した写真帖。芦ノ湖3杯分の湧水と空気に触れると膨らむ粘土層によって工事は難航を極める。主に1924-26年の、伊豆半島の断層帯を貫く前途予測不能な建設工事の光景を収録。《計104頁収録》
『熱海線丹那隧道工事寫真帖』

『熱海線丹那隧道工事寫真帖』 『熱海線丹那隧道工事寫真帖』

伊藤俊治
『大正十二年九月一日 關東地方 大震火災記念寫真帖』解題──“破局の時間”のモンタージュ

「カタストロフィのイメージはとてもよく似ている…」。カタストロフィと写真、そして災害記録のアーカイヴへと展開される、関東大震災直後の鉄道被災状況を記録した写真帖解題。

平倉圭
断層帯を貫通する──『熱海線丹那隧道工事寫真帖』

複数の時間オーダーで動き続ける大地の内部に、一貫した時間と形態を得ようとするトンネル工事。そこにおける物・技術・身体の交錯を内側から記録した写真は、見る者を巻き込み、「受肉」させる。

橋本一径
稲妻写真論

稲妻の形が「ジグザグ」ではないと写真によって否定されたとき、稲妻ははたして「神話」から解き放たれたのだろうか。稲妻表象の歴史を振り返ってゆけば、写真もまた別の「神話」に囚われていることが明らかになる。

《La foudre chez soi》, L'illustration, N°3571, 5 août 1911, p.105
《La foudre chez soi》, L’illustration, N°3571, 5 août 1911.

倉石信乃
ピクチャーへ──災厄写真考

撮影を誘引する磁場でありながら、撮影をためらわせもする験しの場、その最たるものが災厄の現場。災厄の現場を前に、カメラを手にする者が持つべき矜持とは。そこでもっとも問われるべき写真のやむなき特性とは。

三宅克己《戒厳令の布かれたる東京市中》、『カメラ』1923年10月号より
三宅克己《戒厳令の布かれたる東京市中》、『カメラ』1923年10月号より

長谷見雄二 × 中谷礼仁
対談 災害の“ウラ”を読む──東日本大震災と災害記録

東日本大震災と福島第一原発事故から、いま災害・防災・災害記録について考えられることはどういったことなのか。過去の災害記録を見直し、災害の背景を新たな角度から掘り下げる、建築防災と建築理論の専門家による対談。

「天満方面避難の光景」、『写真画帳 大阪の大火』より
「天満方面避難の光景」、『写真画帳 大阪の大火』より

豊島重之
Sigmund Freud/Symptomatic Future──フロイト、または、症候としての未来
 
フロイトが遺した異形の論考「ミケランジェロのモーセ像」「モーセと一神教」再読を中心に、ウィトゲンシュタイン・ベンヤミン・フェニキア文字を呼び水として、20世紀末以来の世界状勢に潜む歪みの中に「症候」を見抜く瞠目の論考。

岡村民夫
宮沢賢治と東北力

岩手県で生涯の大半を過ごした宮沢賢治。その文学・信仰・社会活動を支えていたのは、荒ぶる東北の自然と近代科学への探究だった。東北の大地に秘められた対立する2種の潜在力を調整・交配する賢治の姿には、来るべき東北を想像する手掛かりが其処彼処に潜んでいる。

高橋しげみ
「港づくり」と「八戸づくり」 — 吉田初三郎の八戸市鳥瞰図から

「復興」を旗印とする「三陸復興国立公園」創設から呼び起こされる、太平洋戦争前後の青森県八戸市の観光振興と港湾建設の歴史。吉田初三郎が描いた2つの《八戸市鳥瞰図》をもとに、国策に翻弄されてきた場所の記憶を鮮烈に呼び覚ます。

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吉田初三郎、八戸市鳥瞰図、八戸観光協会刊、1950年、八戸クリニック街かどミュージアム蔵

久保仁志
高橋由一、〈似ている/似せる〉ことの論理 — 絵画を掘削せよ!

近代洋画の開拓者・高橋由一の絵画が発動させる絵画的思考の論理とは何か。〈ジオラマ・パースペクティヴ〉〈ピン送り〉〈分身〉の3つのキータームを手に、福島・山形県境の栗子山トンネルを描いた絵画で達成された事績を鮮やかに分析する。

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高橋由一《栗子山隧道》1881年、東京国立博物館蔵

瀬戸正人
惜別 深瀬昌久 — 深瀬さん、向こう岸が見えますか?

2012年6月に逝去した写真家・深瀬昌久。日本写真史から逸脱するような作品を生み出し続けた深瀬と過ごした日々の記憶を、写真家・瀬戸正人が綴る追悼エッセイ。

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深瀬昌久、1990年、ギャラリーPlace Mにて
撮影:瀬戸正人