写真と「創造」――シェリー・レヴィーン《After Walker Evans》をめぐって第3回北島敬三WORKSHOP写真塾 公開講座

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写真と「創造」
――シェリー・レヴィーン《After Walker Evans》をめぐって

内容紹介(文責:橋本一径)

  • フランスの写真家ルスール氏が出版社を相手取っておこした1855年の訴訟は、写真の著作権が法廷で争われた最初期のケースのひとつである。この年にパリで開かれた万国博覧会で、ルスール氏が撮影した産業宮(Palais d’industrie)の写真が、出版社によって無断で複製・刊行されたのである。今日ならば写真家の著作権が認められてしかるべきこのケースにおいて、法廷が下した判断は、ルスール氏の全面的敗訴であった。産業宮は公共物だから、というのがパリ裁判所の理屈である。つまり公共物を写した写真は、やはり公共物であり、誰がそれを複製しようと、写真家が権利を主張する余地はないというのだ。
  • アメリカの美術家シェリー・レヴィーンは、1981年、《After Walker Evans》と題された作品を発表する。レヴィーンが題材にしたのは、1936年にウォーカー・エヴァンズがRSA(農業安定局)のプロジェクトとして――つまり公共事業として――撮影した、アラバマの農夫の写真だった。エヴァンズの写真を再撮影したものであるレヴィーンのこの作品は、現代美術の文脈において、「アプロプリエーション」すなわち過去の著名作品の「流用」や、レディメイドの作品間の微細な差異を意味するデュシャンの用語「アンフラマンス(極薄)」といった語を用いながら語られることが多い。

130年あまりの時を隔てた、写真の複製をめぐるこれら二つの「事件」を通して浮かび上がるのは、「写真」と「創造」との錯綜した関係である。ルスールの写真に著作権が認められなかったのは、ルスールが何も「創造」していないと見なされたからに他ならない。芸術家の精神や叡智を介して生み出されたのが「創造物」であり、そのような「創造物」こそが、1793年7月19-24日の法令で定められた著作権による保護の対象となる「作品」であると考えられてきた。写真のイメージは芸術家による「創造」ではなく、機械による「複製」にすぎないというわけである。

一方で芸術作品の創造行為は、とりわけルネサンス期以降、「ミメーシス」すなわち「模倣」という概念とも結び付けられて語られてきた。芸術家が自然等を巧みに「模倣」したものこそが芸術作品であり、それは神の「似姿」としての人間による、神の創造行為の反復でもある。芸術家が作品を創造するたびに繰り返されているのは、神による世界の創造であり、芸術家とは言わば小さな神である。男性である神を模倣する存在として、芸術家の役割は当然のように男性たちによって担われることにもなった。

だがなぜ「模倣」は芸術家の媒介を必要とするのだろうか? 自然物を完璧に「模倣」するためには、芸術家の手の介在はむしろ邪魔なだけではないのだろうか。デスマスクのような「型取り」においてすでにくすぶっていたこの問いは、写真において前景化する。自然をより正確に「模倣」する技術としての写真は、ミメーシス文化の産物であり、ミメーシスの追求には芸術家の存在は不要であることを、写真は明るみに出してしまった。

とはいえ写真によって「模倣」された自然物などの被写体は、必ずしも「ミメーシス」の完成形と言えるものでもなかった。被写体は写真によって、小さな二次元のイメージに還元される。写真に写るイメージは、当然ながら被写体そのものではない。にもかかわらず、ルスール氏の写真の産業宮が、現実の産業宮と同じ「公共物」と見なされたように、写真と被写体との間の差異は無視される。写真に著作権が認められるようになってからも、この傾向は基本的に変わることはなかった。

シェリー・レヴィーンの《After Walker Evans》が「作品」として成立しているとすれば、それはまさしく写真と被写体との間においてである。レヴィーンはそこにおいて、何かを「創造」しているのだろうか? 問われているのは、「アプロプリエーション」や「アンフラマンス」のような現代美術の枠組みには収まりきらない、より大きな問題、つまり「写真とは何か」という問題である。


◎北島敬三WORKSHOP写真塾 公開講座
「写真と「創造」――シェリー・レヴィーン《After Walker Evans》をめぐって」
開催日:2019年1月12日(土)
会場:photographers’ gallery
講演:橋本一径 16:00〜17:00
鼎談:橋本一径、倉石信乃、北島敬三(司会) 17:10〜18:30
聴講費:2,000円
定員25名・要予約
※本講座の聴講は、北島敬三WORKSHOP写真塾の受講者を問わず、どなたでもご参加いただけます。
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橋本一径/Kazumichi Hashimoto

1974年生まれ。早稲田大学文学学術院教授。ナント大学理工学部DEA(修士)課程修了/東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は表象文化論、イメージ論。著書に『指紋論 心霊主義から生体認証まで』(青土社、2010)、訳書にジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお』(平凡社、2006)、ピエール・ルジャンドル『同一性の謎 知ることと主体の闇』(以文社、2012)など。論文に「稲妻写真論」「火災写真論」「三脚写真論」(いずれも『photographers’ gallery press』収録)など。

倉石信乃/Shino Kuraishi

1963年生まれ。明治大学教授。近現代美術史・写真史。1988~ 2007年、横浜美術館学芸員としてマン・レイ展、ロバート・ フランク展、菅木志雄展、中平卓馬展、李禹煥展などを担当。 1998年重森弘淹写真評論賞、 2011年日本写真協会賞学芸賞を受賞。主な著書に『スナップショット―写真の輝き』(2010年)、『反写真論』(1999年)、『失楽園 風景表現の近代 1870-1945』(共著、2004年)など。

北島敬三/Keizo Kitajima

1954年生まれ。日本写真協会新人賞、木村伊兵衛賞、伊奈信男賞、日本写真協会作家賞、東川賞国内作家賞、さがみはら国内作家賞を受賞。写真集に『写真特急便 東京』(全12冊)、『NEW YORK』、『A.D. 1991』、近刊に『PHOTO EXPRESS TOKYO』、『USSR 1991』など。国内外で写真展を多数開催。現在、2001 年に創設した photographers’ gallery を拠点に、「UNTITLED RECORDS」を制作・発表している。