第9回 photographers’ gallery講座
「概論 — 『芸術の非物質化』 (ルーシー・リパード)を手引きとして」

第9回 photographers’ gallery講座
連続講座
「不確定地 — コンセプチュアル・アートと写真」(全5回)
第一回 「概論 — 『芸術の非物質化』
(ルーシー・リパード)を手引きとして」
講師:林道郎(美術批評) 司会:斎数賢一郎
2007年1月27日(土) 18:00~


講座概要
1960年代、アメリカにおける美術表現は、グリーンバーグの批評理論に代表されるモダニズム的な美学を離脱する多様な動向の出現を見た。今回のレクチャー・シリーズでは、その中から、60年代後半より顕著となるいわゆる「コンセプチュアル・アート」を取り上げ、その中で写真が果たした役割を考えてみたい。初回は、コンセプチュアル・アートの年代記として基本的な文献の一つであるルーシー・R・リパード(Lucy R. Lippard)の『6年間:1966年から72年にかけての芸術の非物質化(Six Years: The Dematerialization of the Art Object from 1966 to 1972)』を参照しながら全体の流れを概観し、残りの4回をより焦点を絞った作家論にあてる予定である。

Lucy R. Lippard /ルーシー・R・リパード
美術批評家、作家、キュレイター。60年代後半よりコンセプチュアル・アートの批評家として知られるようになる。また彼女は「WEB」、「The Women’s Art Registry」などいくつかのフェミニズム・ アート団体を設立した政治活動家、フェミニストでもある。


講座報告
「芸術の非物質化」というコンセプチュアル・アートの定義が、美術批評の言説のために用意された恣意的なものであり、その本質であるところの「コンセプト」が何であったのかを考察し直すことでコンセプチュアル・アートの再定義を行うことがまず連続講座の主題として掲げられました。モダニズム批判に共通の起源をもつミニマリズムとの相違点を明らかにしていくなかで、林氏はコンセプチュアル・アーティストが頻用する「インストラクション」の非イメージ性に注目します。それはイメージを喚起することを要請しつつもイメージに到達することができないままの宙吊り状態に我々を追いやるものでありながら、指令が実行されることで現実との接触を保つものでした。このとき「インストラクション」を現実へと着地させるための有効な手段であった写真の使われ方を、写真的現実・ドキュメンテーション・記号論の三つに分け詳述され、次回以降の具体的な作家を掘り下げての検証への概論となりました。また質疑応答では身体性や崇高、美術マーケット等、様々な角度からミニマリズムとの相違点をめぐる応答がなされるなか、林氏から「反復における不安」という仮説が伏線として提起されました。

米田拓朗
Michio Hayashi

Michio Hayashi

Michio Hayashi