第1回 photographers’ gallery講座
「アジェ/バリケード/ゴダ-ル」

第1回 2006年9月24日(日)16:00~
「アジェ/バリケード/ゴダ-ル」
講師:岡村民夫(表象文化論・法政大学教授)
司会:斎数賢一郎


講座概要
ウジェーヌ・アジェが19世紀末から20世紀初めにかけて撮影した界隈の多くは、かつてのパリの市壁や市門と不思議なほど重なる。1959年、ジャン=リュック・ゴダ-ルは、デビュー作の主人公をカンパーニュ・プルミエール街の写真スタジオに追いつめ、路上で殺したが、事件現場はアジェが1899年以来亡くなるまで住んだアパルトマンの前であったばかりか、18世紀から19世紀半ばにかけて存在した市門のそばだった。68年5月、学生たちはカルチエ・ラタンにバリケードを築くことによって、パリ最古の13世紀の市壁をそうとは知らずに復元していた。そのとき傍らに小さなカメラを構えたゴダ-ルが立っていたのは、出来すぎた話なのだ。水平な流れを堰止められた歴史は、因果律を越え、「布置=星座(コンステラツィオーン)」(ヴァルター・ベンヤミン)として垂直に結晶する。写真とは、バリケードに似ているのだろうか。

岡村民夫

講座報告
9月24日(日)16:00から、講師に岡村民夫氏をお招きし、「アジェ/バリケード/ゴダール」のタイトルのもと、第1回目のphotographers’gallery講座が始まりました。「画家のための資料」として撮影されたと語られることの多いアジェの写真に、岡村氏自身がその撮影地を辿りなおし再撮影した現在の写真を並べることで、「場所」に対して意識的な写真家としてのアジェを炙り出すことから講座は始まりました。パリの市壁とアジェの撮影地や居住地の関係は、ゴダール、5月革命との符合へとも繰り広げられ、そこには「交通」を遮断するもの、あるいは「運動」を誘発する場所としてのバリケードが築きあげられていることが確認されました。アジェとゴダールという半世紀の隔たりをもちながらも、パリの消滅した市壁に対して自覚的であった二人を、さらに半世紀おいた現在、場所の記憶を失いつつある東京で並置する、大変刺激的な試みがなされました。

米田拓朗
Tamio Okamura

Tamio Okamura Tamio Okamura

Tamio Okamura