Kazutomo Tashiro/田代 一倫
“Trans National” 2008/08/17 - 2008/08/31 12:00 - 20:00 月曜休 / MON CLOSED
数年前、私は自分の暮らす福岡を中心として、東京なども訪ねながら日本の若者を撮影していた。その時私は、テレビや新聞から連日繰り返された報道によって、パリ郊外の若者の暴動を知った。報道の内容は、2005年10月27日、パリ郊外において強盗事件を捜査していた警官が北アフリカ出身の若者3人を追跡したところ、逃の不満の爆発の契機になり、更にこれについて当時のサルコジ外相が述べた意見の中で「社会のクズ」という言葉が放たれ、暴動がさらに広がっていった。若者が暴動を起こすということ事体、一見平穏な日本に暮らす私にはすんなり理解できず、一方で、日本の若者より健全な反抗なのではないのかとも思い、その現場や人々の暮らしを見てみたいという単純な好奇心と、そこに住む若者を記録することは自分にとって意味のあることなのではないかという一方的な思いから、私はパリ郊外へ撮影に行った。そこには、民族的な差異や歴史などが幾層にも積み重なる土地空間と、TransNational(越境)が絡み合う集合体が存在していた。その複雑性、虚構性の理解への入り口に立つことは、若者の状況や暴動の動機を深く知ることにおいても重要であった。そのために私は以後、断続的にパリの境界線を巡り、そして撮影を行い、私が認識したパリのフレームを構築しては壊していく作業を繰り返しおこなった。その作業の継続は、写真を撮ること、記録すること、自分の立ち位置への自問自答であるように思う。そして、人間同士のコミュニケーションは当然のように、受け入れること、あるいは決定的に違うことを認めることから始まっていくような気がする。
田代一倫
作品
展示風景