展覧会:笹岡啓子写真展 “渚にて”
表参道画廊 + MUSEE F

keiko-sasaoka

インディペンデントキュレーター・小原真史氏による企画、笹岡啓子写真展が表参道画廊 + MUSEE Fにて開催されます。

東京写真月間2021 小原真史企画
笹岡啓子展「渚にて」

会期=2021年5月31 日(月)- 6月12日(土) ・日休
会場=表参道画廊 + MUSEE F
時間=12:00-19:00(最終日17:00まで)
主催=小原真史+表参道画廊(〒150-0001東京都渋谷区神宮前4-17-3 アーク・アトリウム B02)  
http://www.omotesando-garo.com/link.21/kohara_sasaoka.html


 
本展は笹岡啓子の「Shoreline」と「Remembrance」「Park City」の3シリーズから構成されています。
日本各地の海岸線を被写体にした「Shoreline」では、陸地が海に侵食され、混交する様子が捉えられています。寄せ来る波と寄り返す波とが出会い、人為と自然とが拮抗する渚は、相互の営みによって時代とともに刻々と変容し続けてきた場所です。笹岡は海に囲まれた日本の国土の曖昧な輪郭を浮かび上がらせると同時に、そのまなざしを山の稜線に転じることで、人間的な時間の尺度では看過されてしまうような、過去と未来の海岸線をも見出そうとしています。

「Remembrance」は、2011年4月から東日本大震災による津波と原発 事故の被災地域で撮影されました。ときに自然の猛威は、海と陸、山と平地との境界線を引き直してしまいます。津波にさらわれた沿岸部を注視したこの連作は、「Shoreline」の延長線上に位置付けられるものだといえます。被災した釡石市で、「となりの大槌町はもっとひどい。広島で落ちた原爆が落ちたみたいだよ」と、自身の出身地の名を耳にした笹岡は、その言葉に導かれるように原発事故の被害にあった阿武隈山地へも撮影地を広げていきました。
「Park City」は、広島の平和記念公園周辺を撮影した連作です。太田川が本川と元安川とに分岐する三角州に位置するこの公園は、1949年に施行された 「広島平和記念都市建設法」のもと大規模に整備され、原爆に関する数々のモニュメントや資料館が残されていますが、笹岡が「ぽっかりがらんとした」という印象を受けたような、寄る辺のない空間が広がっています。笹岡は帰郷するたびに原爆の痕跡の保存とその破壊とが同居するようなこの平坦な広がりにレンズを向け続けてきました。写真のなかの「公園都市」は、戦前の軍都・廣島と戦後の平和都市・ヒロシマとが、 そして記憶と忘却とがせめぎ合う渚のような場所に見えます。

*「渚にて」は、核戦争後の世界を舞台にした小説ネビル・シュートの小説の『On the Beach』(1957年)の邦題。