Tomonori Ryu/笠 友紀
“日本東海岸” 2015/03/12 - 2015/03/22 12:00 - 20:00 会期中無休 / DAILY OPEN

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笠友紀は2014年4月に東日本大震災で被災した地域へ車で向かいます。震災以前に東北の各地を訪れたことがある笠はかつての記憶を思い起こしながら撮影を重ねています。本展では岩手県大船渡市、大槌町、山田町、福島県南相馬市、田村市などで撮影された写真が展示されます。ぜひ、ご高覧ください。
▼ 展示内容/インクジェットプリント、約20点


盛岡をかなり足早に車で旅をした記憶がある。旅をする前に読んだ物語の一話。話の中にある津波常襲地域を目指した。着いたのが大船渡魚市場で、向かいの道に立つと、不意にそこで働いているだろう男が話した「君がまたここに来るのなら、それがいい」、そして話もせずに、ただ横を歩いた。その頃の記録を捨てていて記憶が曖昧で、信じようもなく不思議だった。それでも残したフィルムがあって、東京で写真を習い、始めた頃から数年後も家にずっと置いていた。当時は行ける所へカメラを持ち、歩いて往き来する、フィルムを巻き、まとめる暮らしだった。ちょうど都市から地方への興味が増していて、短い間に思う様に事が次々と進み、車を用意して友人と運転を交代しながら東北へ向かった。仙台を過ぎた辺りで、このまま進むのもつまらないと思い山間の真っ暗な道を通ろうと遠回りを提案していた。山間部は暖かく通りの灯りが明るいこれまでと違い、暗く空気の冷えが肌から伝わる。しかも、この先は海が見えて港町があるはずだが、暗闇で民家もあるのかわからない。先を照らせば道の先がぼんやりと見える。港町は想像していたよりもずっと先でまだ山の中にいた。腰を屈むくらいの高さを、目を凝らして見れば灯りでない何かが見えた。人影が見えて小さな火の向こうで騒いでいた。その中にいる一人が、物をそこへ目掛けて投げた。水槽に当たり、割れると同時に水は漏れ出した。男と話す。奥に立つ女が泣きだし怯えている。翌日の事をこの騒動であまり思い出せないでいる。盛岡なのか、八戸なのか。撮っていたフィルムに写っていたものにも手掛かりはなかった。夜が明けて港の隅からしばらく海岸沿いを走った。津波の伝承や石碑、物語の一話を頭の中から捨てていった。とてもいい詩も。帰るまえに向かった市指定天然記念物の巨木二本を見て、その頃の記憶が浮かんだ。

改札口の外で太平洋側全体の状況を知る。宮古に津波がきていた。博多駅は、九州新幹線開通記念のイベントだった。2011年3月11日16時14分、「さくら、いまさきほこる、せつなにちりゆくさだめとしって、さらば、ともよ、いま、たびだちのとき」、向うから男がやって来る。「もっとまえでおねがいします」「もっとまえのほうへでてください」「はい」。16分、演奏。18分、手拍子。20分、手拍子。拍手。「どうもありがとうございました」「それでは」「いまからは」ヒットパレード。16時24分、「ずんずんずんずんどこ」「ずんずんずんずんどこ」「あめにふれてもはなはちる」「おなじさだめの、こいの花」。16時30分、「あいたかった、あいたかった、きゅん、きみに、あいたかった」。拍手。高等学校の吹奏楽部の演奏だった。次の曲、拍手、小さく手拍子、拍手。

並ぶ二頭の鹿が、ひっそりした港町の脇道を横切る。町がなくなって電柱の高さに林の木が揃っている。夜に車で雪の残る山中を走っていると、カーライトに照らされた野生の群がこちらを向く、両目が輝く。町から次の町迄、海岸沿いを更に走る。移動中のカーステレオで、友の好きなバンドを繰り返す。東日本大震災から受けたインスピレーションを唄う。
工事用の大型車両が通った後と時折起こる風で土や砂が、身体よりもはるか高くに上がる。ずっと遠くに気仙沼墓地があった。山田まで行くと決める。太陽が山で隠れて、着く頃は空だけが見えた。仮の商店がまとまってある街を一回りする。逆光の先にある建物へ向かう。歩いていると、町の人が話しかけてきた。話すことで私だけがここまで来ていたのではなさそうで、気持ちが楽になった。
釜石市平田バス停、平田診察所、黒崎展望台、陸前高田市。
日が沈む中、男が一人で奇跡の一本松をカメラで撮っている。月が昇り太陽は山に沈み、欠ける。東日本大震災追悼施設まで歩いてこの日最後のシャッターを切る。
岩手県から海岸沿いに何百キロと南へ下った。震災後の瓦礫等も多い。波乗り達が波を待っている。被害を受けた建物に人の面影はない。すぐそばで工事が進んでいた。福島に着く頃に疲労もピークを越した。そこで撮影は終わりだった。それでもと何本か残るフィルムで続けた。何とも云えない感覚が残った。それは機材が原因だった事を知るのは、このカメラを次に使う後だった。    

笠友紀

展示風景

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