第11回 photographers’ gallery講座
「Mel Bochner/メル・ボックナー」

第11回 photographers’ gallery講座
連続講座
「不確定地帯 — コンセプチュアル・アートと写真」(全5回)
第二回「メル・ボックナー Mel Bochner」
講師:林道郎(美術批評) 司会:斎数賢一郎
2007年2月4日(日) 16:00~


講座概要
コンセプチュアル・アートと一括りにされるようになった運動には、様々に違った制作態度が併存していた。概念を作品の本質と基底し、現象としての作品を二次的な写しや単なる手段と見なす立場もあれば、概念と現象の相互規定的あるいは相互違和的な関係にこそ着目しようとする立場もある。メル・ボックナー(Mel Bochner)は後者を代表する作家であり、しかも写真というメディアをその探求の重要なフィールドとして選んでいる。そのボックナーの写真とのかかわりが提起する諸問題について、彼のドローイングやインスタレーションなどとともに様々な角度から考察してみたい。

Mel Bochner /メル・ボックナー (1940-)
アメリカの批評家、アーティスト。最初期はロバート・スミッソン(Smithson, Robert, 1938-73)と共同して行った批評の執筆でよく知られた。1966年、「必ずしも美術と目されることを意図しない、下書きとその他の紙の上の視覚的なもの」というコンセプチュアル・アートにおける最初の展覧会を組織した。70年代以降は測定(メジャメント)をめぐる作品をはじめ多くの作品を手がけている。


講座報告
概念と現象の関係性をめぐるメル・ボックナーの試行を辿りながら、「インストラクション」と写真作品を軸にコンセプチュアル・アートの再考がなされました。数列に基づいて展開された作品など、現象とそれが依拠する概念の相互言及性によって自律した作品群から、写真のもつイリュージョンへの気付きを契機に、概念と現象の不透明な関係性へとボックナーの関心は移行していきます。写真のもつイリュージョンと物質としての平面性という相反する現象を併置することで、そうした概念と現象の微妙な齟齬を顕在化させていることに林氏は注目し、彫刻概念の拡張がそこに見られると指摘します。遠近法のもつイリュージョンや公共的な測量単位などへとその対象を拡大していくボックナーの探究は、概念と現象の間に起きる出来事としてコンセプチュアル・アートを捉えうることを示し、そこに写真が介在していることが確認されました。

米田拓朗
Michio Hayashi

Michio Hayashi

Michio Hayashi